電力設備
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1.変電設備
南西急行は、沿線に32箇所の直流き電変電所(SS)と、3箇所の開閉所(SP)、6箇所の系統分離用動力断路器(DS)を設けている。変電所は全て東京電力㈱から三相66kVの2回線で受電しており、自社送電線は無い。
電車線電圧は南西急行の前身3社(京神電鉄・青海鉄道・水澄鉄道)の発足以来1500Vであり、他の多くの民鉄のような昇圧を経験していない点が大きな特徴と言える。また、長大トンネル区間を除き上下一括き電方式を採用し、変電所の主回路構成を極力シンプルにしている。
変電所には二つのタイプがある。
- Aタイプ
- 受電系2回線、変成系2回線の構成で、予備の直流高速度遮断器(HSCB)を設けている。新宿・旗塚・目黒台・岩崎・姫川・紅林・学園・乾・黒沢・神津・臨海・成原・空港・美咲・桂木・北方・薙山・八浦・館川・江藤・柳・矢積の各変電所が該当する。
- Bタイプ
- 受電系2回線(高徳ss以外、受電用遮断器は1基のみ)、変成系1回線の構成で、予備の直流高速度遮断器(HSCB)を設けず、延長き電用動力断路器を設けている。飛田・菅原・鶴神・高原・麦田・高徳・中河・聖の各変電所が該当する。
近年は、整流器から発生する高調波を抑制するため、Aタイプの変電所では主変圧器をY-Y結線とY-Δ結線で組み合わせて等価的に12相整流器とする主回路構成が採用され、Bタイプの変電所では12相整流器が使用されている。
最近導入している新技術としては、GIS(ガス絶縁開閉装置)、純水沸騰冷却式の変圧器・整流器、サイリスタ整流器、デジタル保護リレー、新型直流地絡継電器(64PB)等がある。
南西急行の変電設備は、各ポストの全機器を1台のコンピュータで制御する集中型ME(Micro Electronics)配電盤で制御される。これは、従来のME配電盤の設計を徹底的に見直し低コスト化と高信頼化を両立したもので、配電盤のスイッチ類を全てコンピュータの画面上で再現して機器コストの低減を図っている。電流・電圧の計測や電力指令との通信も全てこのコンピュータが担う。また、コンピュータが動作不良を起こした場合に備え、各開閉器を手動で強制的に操作する集中操作盤も設けられている。
2.電車線路設備
南西急行では区間ごとの輸送量や列車速度、設備環境に応じて架線方式を使い分けている(下表参照)。
支持物はVトラスビームおよび可動ブラケットを主力とする。電化柱は、ほぼ全線に渡ってコンクリート柱となり、木柱は残っていない。
架線金具は集電性能を向上させるため軽量型のものを積極的に採用している。自動張力調整装置は、滑車式(WTB)からばね式(STB)へ交換が進んでおり、き電ちょう架式架線区間では小型で高張力な蓄圧式が初めて本格的に導入された。
形式名 | 区間 | 支持方式 | ちょう架線 | トロリ線 |
インテグレート | 旗塚~神津(緩行線) 神宮線 | 可動パイプ式 | PH325 19.6kN×2本 | GTM-Sn170 14.7kN |
合成架線 | 渋谷~三泉(急行線) | 可動ブラケット | PH150 14.7kN | (補助Tr)PH100-0.6kN GT110-0.9kN |
ヘビーシンプル | 三泉~美咲(急行線) 青海線美咲~八浦 水澄線美咲~御幸台 | 可動ブラケット | St135 19.6kN (トンネル内はPH150) | GTM-Sn170 14.7kN |
シンプルA | 青海線八浦以南 | 可動ブラケット | PH150 14.7kN | GT-Sn110 9.8kN |
シンプルB | 水澄線御幸台以西 | 可動ブラケット | St90 9.8kN | GT-Sn110 9.8kN |
シンプルC | 車両基地内 | 固定ビーム | St90 9.8kN* | GT-Sn110 9.8kN |
剛体 | 新宿~渋谷 旗塚~恵比寿 旗塚~目黒台 | アルミ筐体 | GTM-Sn170 |

新宿~渋谷間の明治通トンネルでは、アルミ筐体型剛体架線が使用されている。これは平成5~8年度に新宿駅改良工事に伴って同区間を営業休止した際にカテナリ式架線から改造されたもので、極めて珍しいケースである。その後、目黒台線の目黒台駅構内・目黒台運転所も同種設備が導入されている。

京神電鉄 旗塚~紅林間は、複々線化工事の際に緩行線側から完成したが、その段階で信号高圧線を2回線確保する必要があったため緩行線と急行線の間に柱を立てて2線跨のVトラスビームを渡す方式が選択され、ビーム上のやぐらに信号高圧線を添架していた(通常の複々線化なら4線跨のVトラスビームとするところである)。近年、信号高圧線はケーブル化され、やぐらも撤去されている。緩行線の電車線は、建設当時のツインシンプル架線からき電ちょう架式架線(JR東日本のインテグレート架線をアレンジしたもの)に更新されている。
急行線側は、建設当初は1時間に最大16本の運転しか想定されておらず、コストダウンのために可動ブラケット支持のシンプル架線が採用されたが、列車増発や列車の制御方式の変更に伴うピーク負荷の増大に対応するため、き電線の増設やヘビーシンプル架線化が行われている。さらに設備の耐震性を向上させるために上下線の柱をチャンネルビームで連結する補強工事が行われた。

紅林~乾間の複々線化では、用地幅を縮小するために、4線跨のVトラスビームが採用された。急行線と緩行線の支持方式が異なるのは、JR西日本山陽本線の須磨付近の設備に似ている。

末木駅の南方で急行線が地下に潜るところの設備状況を示す。信号高圧線はケーブル化されているので図に含めていない。地上区間のまま残された緩行線はVトラスビームでインテグレート架線を支持する方式となっている。

湾岸新線建設時、神津トンネルおよび空港トンネル内は、高速運転に対応するためき電ちょう架式ではなくヘビーシンプル架線が採用された。ちょう架線は硬銅より線であり、トンネル内漏水による腐食に強い設備としている。

湾岸新線区間および青海線・水澄線区間では、耐震性補強用のチャンネル・ビームにき電線・信号高圧線を添架している。上図は上下線のき電線をき電分岐装置で連結している箇所を示した。平成26年7月現在、湾岸新線区間では信号高圧線のケーブル化の工事が進められている。
青海線八浦以南、水澄線御幸台以西は信号高圧線は単相1回線のみであり、保安上、かなり心もとない設備と言える。
3.き電系統


南西急行では、明かり区間に上下一括・方面別並列き電方式、地下/長大トンネル区間に上下別・方面別並列き電方式が採用されている。設備の簡素化とコストの縮減、電圧降下の救済、回生電力の有効利用等を目的としている。
運転上の拠点となる駅では出入口付近にエアーセクションと動力断路器が設けられ、駅の起点側・終点側のどちら側で電車線路設備に事故があっても構内を極力停電させない工夫が凝らされている。
4.信号用高圧配電設備
南西急行では高圧配電設備が信号高圧系と電灯電力系に区分されており、前者は沿線の運転用変電所で、後者は各駅・各事業所(検車区や工場等)で受電して、それぞれの負荷に電力を供給している。
信号高圧系統の負荷設備は、信号機、軌道回路、転轍機、踏切、電気融雪器、連動装置、保安装置、通信装置、列車無線基地局、保守作業用電源、き電系統区分用断路器、変電所・開閉所・配電所用制御電源、トンネル照明、トンネル排水用ポンプ等があり、列車運転に直接関わる機器か、線路沿線に配置されている機器類に限定される。

信号高圧配電用の変圧器は32変電所のうち13箇所に設けられ、方面別に単相交流6600Vの2回線で配電している。ただし、青海線八浦以南・水澄線御幸台以西は1回線である。配電線には両端の変電所から配電できるが、通常は新宿方の変電所から下り方へ配電されている。
2回線配電の区間では、1号線・2号線の電源切替は負荷側に無瞬停切替可能なCOEを設けて行われる。さらに、配電元の変電所を切り替える場合は、全部の変電所が東京電力㈱からの受電で電流・電圧の位相が合っていることを利用し、短時間の並列配電を行うことで無瞬停切り替えができる。
1回線配電の区間では、配電線路に事故があった場合に事故点を素早く探索するためにロケータが備えられている。
5.電灯電力用高圧配電設備
信号高圧系統下に無い、駅の照明・券売機・自動改札器・電気掲示器・エスカレータ・エレベータ・空調等、列車の運転に直接関わらない負荷は、電灯電力の系統に含められる。
新宿・渋谷・恵比寿・窯硅院・目黒台・旗塚・三泉・紅林・乾・神津(2箇所)・海浜公園・新長坂・新成原・美咲空港・美咲・桂木町・八浦・青海ヶ浦・矢積・御幸台・水澄の各駅には、非常用発電機を備えた配電所を有している。
その他の駅は、三相交流6600Vをキュービクルで受電し、青海線・水澄線の小駅では低圧で受電している。
また、設備区・電気区・検車区・運転区等の現業機関は、事務所の建物ごとに受電している。関浜車両所の工場側には、東京電力㈱から60kVで受電する専用の変電所が設けられている。
6.電力指令設備
南西急行の電力指令は本社ビルの総合指令所内にあり、沿線の変電設備を遠隔制御してき電系統と信号高圧系統の統制を行っている。電灯電力系統は各配電所での直接操作で制御される。
南西急行の前身3社はいずれも変電所遠方監視制御装置(遠制装置)が無いころに電化したため、各変電所に操作員を常時配置していた。古い変電所には操作員が常駐するための居住スペースが残っている。
その後、昭和38年に当時の国鉄鉄道技術研究所が開発した鉄研BW形遠制装置が導入されたが、それ以降は技術革新が途絶え、昭和53年に部分開業した湾岸新線区間もBW形が採用されていた。
なお、電力指令所はかつて藤田・八浦・矢積の3箇所に分かれていたが、昭和51年の美咲新駅の使用開始と共に3箇所とも美咲駅構内に移設され、湾岸新線の指令設備もここに設けられた。
平成9年に美咲駅の指令所を本社ビルに移転する際に遠制装置の更新が行われ、データ通信によるコンピュータ制御に移行して現在に至っている。
7.メンテナンス体制
電力設備の保守作業を担当する現業機関としては、紅林・関浜・八浦・矢積の各電気技術センターに電車線・配電・変電の各Gがある。なお、駅関係の電灯電力設備の検査や保全作業は、一般のビル等と同じように全て外注している。
日常の保守作業の中心は電気・軌道総合検測車であり、月1回、全線を走行させてトロリ線摩耗量やトロリ線高さ・偏倚、硬点等の測定が行われる。この検測車9010系は、従来の検測車に対して、エアーセクションや渡り線箇所の相互離隔測定、離線率(電流式)・接触力の連続測定が新たに可能となっている。
電灯電力設備の保守や、架線の張替等の修繕工事は、南西急行電鉄の関連会社である湘南電気エンジニアリング㈱(略称SEEC)が施工している。SEECは、保線のSTECと同じ南西急行と南武鉄道の合弁会社で、両社の電力・信号通信設備の保守作業と修繕工事を請け負う。ただし、電気設備は線路設備と違って会社ごとに設備内容がかなり異なるので、STECほどシナジー効果が発揮されているわけではない。