南西急行電鉄研究会

美咲空港駅拡張

 すでに過去のものとなったが、かつて美咲空港駅は平成9年10月~平成19年10月のちょうど10年間にわたって南西急行とJR東日本の共同使用駅であった時期がある。本項では、その経緯と駅の構造の変遷を解説する。
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図1 開業当初の美咲空港駅

 同駅は美咲空港のバス・ターミナルの直下に地下2階構造で建設された。地下1階がコンコース、地下2階が2面4線のホームである。空港利用客のためとはいえ、開業当時からエスカレータとエレベータを備え、バリアフリー化(当時はそういう言葉は無かったが)が図られていたことは特筆される。

1.JR~南西急行連絡線について

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図2 平成5年ごろの美咲付近の配線図

 別項「湾岸新線」で述べているが、湾岸新線は建設の初期の段階で国鉄美咲港線との連絡線が設けられ、美咲空港の建設資材輸送に使用された。この連絡線は空港の完成後に撤去する予定であったが、南西急行への新車搬入等に活用できることから存置することになった。また、将来的には”南西急行から国鉄へ”乗り入れすることも考えられていたらしい。ところが、これが後に逆の目的に利用されることになる。

 図2の配線図では、美咲駅のホームはすでに増設されている。運河信号場は分岐施設としては稼働していたが、新車搬入等は美咲空港~美咲間の線路を閉鎖して行うようになっており、通常の列車運行に使用可能なハードウェアではなかった。

2.空港アクセス輸送をめぐって

 JRの美咲空港乗り入れの契機となったのは、平成3年6月、平成10年(1998年)の冬季オリンピック開催地として長野が選定されたことである。その主たるアクセス手段として、同年8月には北陸新幹線 軽井沢~長野間の工事が認可・着手された(高崎~軽井沢間は先行して工事が認可されていた)。このとき問題になったのが、新幹線に接続させる空港アクセス列車の整備である。

 当時、すでに首都圏には成田・北関東・美咲の3空港が整備されていたが、成田空港へは平成3年3月からJR東日本が特急「エアーエクスプレス」の運転を開始しており、北関東空港は近傍の上越新幹線熊谷駅へバス連絡が可能であった(同空港は短距離国内線専用なので五輪輸送は想定する必要がそもそも無かったのだが、他の空港と利便性を合わせるために、後に同空港へのアクセス路線の建設が決定された)。残る美咲空港だけが、直接北陸新幹線にアクセスする手段が無い。その点から、JR東日本は、当時の運輸省が主催していた「五輪アクセス鉄道検討委員会」において南西急行美咲空港駅への乗り入れを提案した。

 南西急行としては、自社がリスクを取って開拓した美咲空港アクセス事業に他社が参入するなど論外であって、「要は美咲空港から東京駅へ直通列車があればいい」と主張し、美咲空港から恵比寿を経由して営団谷町線大手町まで空港アクセス列車を乗り入れさせる、という案を提示した。谷町線大手町駅は地下通路でJR東京駅に接続されているので、かなり距離があるが一応徒歩連絡できる。その地下通路に徒歩時間を短縮する「動く歩道」を設ければ問題は無い…というのがその骨子であった。当時、南西急行は団体・臨時列車用の新型車6000系を建造していたが、この車両はまさに同社の主張を具現化したものであった。

 一方、JR東日本側は、南西急行がJR-PASS(外国人向けの全JRグループ共通の企画切符)に対応していないこと、また、成田空港と美咲空港へアクセスする鉄道会社が異なるのは不案内な外国人旅客を混乱させる原因となることを指摘した。一応、説得力のある話である。

 実のところ、運輸省は当初からJR案に傾いていた。また、美咲空港アクセスにおける南西急行のシェアが大き過ぎる(平成3年当時、全交通モードに対して52%を占めていた)のはしばしば問題視されており、南西急行としては他社の参入を妨害したことで「公正な競争を阻害している」などと批判されてはたまったものではない。南西急行はそのような空気を読み、問題がこじれる前にJR案を呑んで、乗り入れに関する条件闘争に移ったのであった。

3.JR乗り入れをめぐる協議の過程

 南西急行・JR東日本の両者がまず基本的に合意したのは「費用をかけたくない」という点であった。そのため、接続点となる運河信号場周辺の設備は極力いじらないことになった(当時、運河信号場を改造して南西急行とJRの接続駅にしようという案があった)。その他、具体的な合意内容は以下のとおりである。

美咲空港駅の接客設備
大掛かりな改造工事はせず、両社で改札口を共用する。不正乗車と誤乗の両方を防止するため、JRの列車は乗降口で再度検札する。駅の営業については、JRが南西急行に委託するが、切符売り場としての「みどりの窓口」及び「びゅうプラザ」はJR東日本の直営で置く。そのためのスペースは南西急行が賃貸することになった。
営業政策
JR東日本の首都圏全駅から南西急行線への連絡乗車券を購入できるようにする。長距離切符に関しても、全国の駅から南西急行の駅まで一枚の乗車券で発売できるようにするためのマルスのプログラム変更をJR東日本の費用で行う。
また、JRは、南西急行の美咲~美咲空港間を自社線として営業できることになった(時刻表の路線図ではJR美咲空港線は美咲駅で分岐して美咲空港までとなっている)。運賃は美咲で打ち切り計算し、同区間の運賃は南西急行と同額に設定する(割引は適用しない)。さらに、JR東日本は沿線各地を着地とする旅行商品を南西急行側と事前協議無しに設定できることとされた。
ホームの割り当て
美咲空港駅2番線をJRの専用ホームとし、JR列車は同駅で全て折り返し運転とする。JR用の着発線が1本のみではダイヤが乱れたときに南西急行・JR双方が対応できなくなるので、2番線の新宿方にJR列車用の引き上げ線を新設した。また、南西急行が同駅の着発線を1本失うことの補償として、美咲駅の新宿方にダンパー線が設けられた。これらの費用はJRが負担。
乗り入れ本数
南西急行が15分ヘッドであることから、1時間4本まで。ただし、将来南西急行がダイヤパターンを変更する場合は、それに合わせて本数も変更される。また、朝ラッシュ時には列車を受け入れる余地が無いので、乗り入れは行わない。乗り入れ列車は定期の特急列車のみ。
JR側としては、1時間4本の枠が与えられても、当時のダイヤ構成ではホーム滞留時間が5分しかなく、折り返し整備の時間が足りない。そのため、実質的には1時間に2本の乗り入れとなった。折り返し整備をせずに、車輌交換を行う場合は回送電車を含めて4本の運転ができることになる。JR東日本は、美咲空港駅に到着した列車を関浜検車区へ収容してから折り返しさせることを希望したが、設備改修費用および運行管理の面から実現しなかった。
編成長
南西急行の最大編成長に合わせて最長8両。これはJR側にはかなり苦しい条件である。
保安装置等
運河信号場~美咲空港間はJR列車用の保安装置としてATS-Pを併設する。列車無線もJRの周波数に対応した設備が地上側に設けられた。
トラブルシューティング
何らかの理由でJR列車を乗り入れさせることが出来なくなった場合は南西急行の責任で代替輸送をする。

4.平成9年10月-JR乗り入れ開始

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図3 平成9年10月時点での美咲付近の配線図

 上記の乗り入れ協定に基づき、平成4年度からJR列車の受け入れ工事が着手された。もっとも施工量が大きかったのは美咲駅の配線改良工事であったが、同駅は平成4年10月改正における列車増発に備えて7・8番線ホームの増設工事を施工中であり、その体制を継続することで対応可能であった。

 より大変だったのは、運河信号場~美咲空港間のATS-P併設工事である。南西急行にとっては初めて触れる技術のため、JR東日本に信号担当の社員を出向させ研修を受講させる等の措置が必要であった。

 図3の配線図では、美咲空港駅の着発線が1線分JRに引き渡されることに対する機能補償として、美咲駅の新宿方にダンパー線がJR側の負担金工事により設けられている。南西急行側で輸送障害が発生した際に列車を抑止したり、青海線水澄線の臨時列車を折り返す際に待機させるのに使用される。また、美咲空港駅にはそれまで準備工事に留まっていた引上線が増設された。


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図4 JRの特急「エアーエクスプレス」の運転系統

 これらJR乗り入れ用の設備は平成9年10月1日のJRのダイヤ改正に合わせて使用開始された。この改正では、北陸新幹線(長野新幹線)高崎~長野間が開業したほか、特急「エアーエクスプレス」が北関東空港~東京~成田空港、美咲空港~東京~成田空港、美咲空港~新宿~北関東空港の3系統(253系6連、1時間ヘッド)で運転を開始したのが大きな目玉であった(図4)。


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図5 JR乗り入れ時点での美咲空港駅

 このときの美咲空港駅の構造を図5に示す。2番線がJR専用とされたが、改札を分離することはできず、JRの切符で南西急行を通じて営団、さらにその乗り入れ先の私鉄路線までノーチェックで行けてしまうことになる。これを避けるため、当駅発着のJR列車は特別料金が必要な優等列車に制限された。

5.空港第2ターミナル開設

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図6 JR乗り入れ時点での美咲空港駅

 平成16年12月、美咲空港に第2ターミナルビルがグランドオープンし、それに伴って駅が大幅に拡張され、第1・第2ターミナル間を連絡する通路の機能を兼ねるように構造が抜本的に見直された。このころは、後述するJR専用ホームの工事も始まっている。

6.平成19年10月-JR駅の分離

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図7 JR駅分離後の美咲空港駅

 前述のように、JR列車の当駅への乗り入れはいくつかの大きな制約を伴っており、JR東日本の営業政策の重い足枷となっていた。特に問題であったのは、乗り入れ列車が優等列車に限定され、空港近辺のJR駅からの空港アクセス利用が不可能である(美咲で南西急行に乗り換えなければならない)こと、そして、空港利用客が最も増える時間帯(すなわち朝ラッシュ時)に同駅への乗り入れができない、という2点であった。

 そこで、JR東日本は平成15年度から独自の美咲空港アクセス新線の建設に着工した。この工事は、運河信号場における南西急行との接続を解消し、南西急行の空港第二橋梁の東側にJR線用の橋梁を新設するものである。また、美咲空港駅にはJR専用の1面2線のホームを新設し、南西急行駅と分離した。当駅は既存の構造物との兼ね合いからJR用のコンコースを設けることができず、ホーム幅を大きくして、ホーム内に改札や精算所等を設けるという異例の構造が採られている。

 この「JR美咲空港線」は平成19年10月1日のダイヤ改正から使用開始され、JRは南西急行のダイヤの都合に合わせる必要がなくなり、数々の営業上の制約からも解放された。また、南西急行側にも、JR側で頻繁に発生するダイヤ乱れの影響を自社線に持ち込まれなくなるという多大なメリットがあった。


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図8 美咲空港駅のJR専用ホーム新設後の配線

 図8では、運河信号場が廃止され、JRの線路が美咲空港まで延びている。JR線が空港へ至る新橋梁は複線対応で建設されているが、当面線路は単線である。また、美咲空港駅には南西急行とJRを結ぶ亘り線が設けられた。この亘り線は、現在のところは南西急行の新車搬入等の非営業用途に限定され、深夜時間帯に線路閉鎖を確保し手動扱いで車両を入れ替えることしかできないが、将来の両社間の直通運転に含みを持たせている。



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